【MV制作秘話】庵野秀明監督はなぜ宇多田ヒカルを自撮りで撮影した?

目次

「One Last Kiss」のミュージックビデオ(MV)は、2021年3月9日午前0時にYouTubeで公開された。

監督を務めたのは、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の企画・原作・脚本・総監督を担当した庵野秀明だ。

映画監督が人気アーティストのMVを手掛けたというだけでも珍しいが、この作品には制作方法にも大きな特徴があった。

コロナ禍だから実現した遠隔制作

宇多田ヒカルone last kiss

宇多田ヒカル側からMV制作の依頼を受けた庵野監督は、当時の感染症対策を考慮し、本人が撮影した映像素材を受け取って編集する方法を提案した。

制作の流れは次のとおりだ。

1. 庵野監督がメールで撮影の基本的な要望を伝える。
2. 宇多田ヒカルがロンドン郊外で撮影する。
3. カメラ目線やリップシンクなど、最低限の演出指示に沿って素材を収録する。
4. スマートフォンを含む複数の機材で撮影した映像を日本に送る。
5. 庵野監督らが映像を編集してMVを完成させる。

撮影現場に庵野監督が赴いて直接演出する方式ではなかった。

この制作方法によって、宇多田ヒカルの自然な表情や日常に近い映像が作品に取り込まれた。

なぜMVがエヴァの映像ではなく宇多田ヒカル本人なのか

MVを見て意外に感じる人もいるかもしれない。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のテーマソングであるにもかかわらず、映像の中心はアニメのキャラクターではなく、宇多田ヒカル本人だからだ。

しかし、ここには楽曲のテーマとの共通点がある。

歌詞では、写真に残らない記憶や、誰かと過ごした時間が重要な意味を持っている。MVでも、本人が撮影した映像を通して、作り込まれた演技とは異なる親密さが表現されている。

公式のMV紹介でも、過去の大切な記憶をたどるような、切なさを感じさせる作品として説明されていた。

また、映像編集には庵野監督だけでなく、映画本編の編集を担当した辻田恵美も参加したとJ-CASTニュースが報じている。

公開後20日間で2,000万再生を突破

MVは公開直後から大きな反響を呼んだ。

ソニーミュージックが2021年3月28日に発表した情報によると、YouTube公開から20日間で再生回数が2,000万回を突破。宇多田ヒカル史上最速の記録となった。

同時期には、Billboard JAPANの総合ソングチャート「JAPAN HOT 100」で約10年4か月ぶりの総合首位を獲得したことも公式に発表されている。

映画、楽曲、MVがそれぞれ独立した話題になるのではなく、庵野秀明と宇多田ヒカルという二人のクリエイターの共同作業として注目された点が、この作品の特徴だ。

【エヴァ歴代主題歌との関係】宇多田ヒカルがシリーズに残した音楽の軌跡

宇多田ヒカルとエヴァンゲリオンの関係は、「One Last Kiss」から始まったものではない。

2007年公開の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』から、宇多田ヒカルはシリーズに楽曲を提供してきた。

その音楽の歩みを振り返ると、「One Last Kiss」が単独の新曲ではなく、長いシリーズとの関係を締めくくる楽曲として位置付けられていることが分かる。

歴代楽曲と映画の関係

年 作品 宇多田ヒカルの楽曲 作品との関係
2007年 ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 Beautiful World 作品テーマソング
2007年 ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 Fly Me To The Moon (In Other Words) -2007 MIX- 予告編挿入歌
2009年 ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 Beautiful World -PLANiTb Acoustica Mix- 作品テーマソング
2012年 ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q 桜流し 作品テーマソング
2021年 シン・エヴァンゲリオン劇場版 One Last Kiss 完結編テーマソング
2021年 シン・エヴァンゲリオン劇場版 Beautiful World (Da Capo Version) 完結編のエンディングを彩る楽曲

宇多田ヒカルと庵野秀明の関係

両者の関係を整理すると、今回の作品が単なる楽曲提供ではないことが見えてくる。

エンティティ 役割 関係性
宇多田ヒカル アーティスト 歴代シリーズ楽曲の作詞・作曲・歌唱
庵野秀明 映画総監督・MV監督 新曲のMV制作、Da Capo Version制作の依頼
One Last Kiss 新曲 シン・エヴァのテーマソング
Beautiful World 過去の楽曲 新劇場版第1作から続く音楽的なつながり
Beautiful World (Da Capo Version) 新バージョン 完結編のエンディングで新曲とメドレーを構成
辻田恵美 編集者 映画本編およびMVの編集に関与したと報道

なぜ宇多田ヒカルの楽曲がエヴァに合うのか

エヴァンゲリオンという作品は、ロボットアニメとしての戦闘や謎解きだけでなく、人間関係、孤独、他者との距離、自己理解などを描いてきた。

宇多田ヒカルの楽曲にも、愛情や孤独、自己認識、他者との関係を扱った作品が多い。

特に「Beautiful World」は、誰かに理解されたいという気持ちや、自分自身の存在を見つめる感覚が印象的な楽曲だ。

「One Last Kiss」では、その感情が出会いと別れ、記憶というテーマに結び付いている。

ここで重要なのは、楽曲と登場人物を一対一で対応させる必要はないということだ。

歌詞を碇シンジや特定の登場人物の心情だけに限定すると、作品が持つ普遍的な感情の広がりを狭めてしまう。

むしろ、エヴァンゲリオンが長年描いてきた人と人との関係を、宇多田ヒカル独自の言葉で表現したものとして聴くと、楽曲の魅力がより伝わる。

【プロの結論】One Last Kissがエヴァ完結編に果たした本当の役割

「One Last Kiss」の価値は、映画のために制作された人気主題歌というだけでは説明できない。

音楽作品として注目すべきなのは、2007年から続いてきた宇多田ヒカルとエヴァンゲリオンの関係を、2021年の完結編でひとつの流れとしてまとめたことだ。

1. 別れを悲しみだけで表現していない

歌詞の中心にあるのは、失うことへの恐怖だけではない。

大切な人と出会えたこと、思い出を共有できたこと、そして別れた後にもその人を覚えていること。

これらを一続きの感情として表現している。

だからこそ、失恋を経験した人だけでなく、友人や家族など、大切な人との別れを経験した人にも響く余地がある。

2. 過去の楽曲を完結編の中で再構築した

「Beautiful World (Da Capo Version)」の存在は、作品全体の音楽的な構成を理解するうえで欠かせない。

新曲だけで完結させず、シリーズ初期の楽曲を再び登場させたことで、長い時間をかけて続いてきた物語に音楽的な連続性が生まれた。

「One Last Kiss」が別れを感じさせる楽曲だとすれば、「Beautiful World (Da Capo Version)」は過去を振り返り、始まりに戻るような役割を担っている。

3. MVも映画とは異なる方法で記憶を描いた

庵野監督のMVは、アニメーションや映画本編の映像を中心に構成するのではなく、宇多田ヒカル本人の撮影素材を編集する方法を採用した。

この選択によって、歌詞にある記憶や親密さというテーマが、映像にも反映されている。

映画の世界観をそのまま再現するのではなく、楽曲を聴く人が自分自身の記憶を重ねられる映像にしたことも、作品の魅力だ。

どんな人におすすめの聴き方なのか

- エヴァンゲリオンのファン: 『序』『破』『Q』『シン・エヴァ』の順に関連楽曲を聴き、シリーズの音楽的な変化をたどる。
- 歌詞を重視する人: 日本語歌詞と宇多田ヒカル本人による英訳を比較し、表現の違いを楽しむ。
- 宇多田ヒカルの音楽が好きな人: 「Beautiful World」と「Da Capo Version」を続けて聴き、同じ楽曲がどう再構築されたかを味わう。
- レコードを集める人: 国内LPと海外のカラーヴァイナルの仕様やジャケットの違いを確認する。

反対に、映画のストーリーを知らずに楽曲の背景を理解したい人は、まず歌詞とMVを単独で楽しみ、その後に映画を鑑賞すると、それぞれの作品が持つ意味を比較しやすい。

【宇多田ヒカルのOne Last Kiss】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:One Last Kissの配信日はいつですか?

A1:2021年3月9日午前0時です。CDと国内の完全生産限定LPは翌日の3月10日に発売されました。

Q2:One Last Kissは何の主題歌ですか?

A2:『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のテーマソングです。宇多田ヒカルがシリーズ完結編のために書き下ろしました。

Q3:One Last Kissの歌詞はどんな意味ですか?

A3:大切な人との出会い、別れの予感、忘れたくない記憶を描いた楽曲です。最後のキスを、別れを前にした愛情と記憶の象徴として解釈できます。

Q4:One Last KissのMVは誰が監督しましたか?

A4:『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の総監督を務めた庵野秀明です。宇多田ヒカルがロンドン郊外で撮影した映像を日本に送り、編集する方法で制作されました。

Q5:Beautiful World (Da Capo Version)とは何ですか?

A5:『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』のテーマソング「Beautiful World」をゼロからリメイクした新バージョンです。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のエンディングでは「One Last Kiss」に続くメドレーとして使用されました。

Q6:One Last KissのCDとLPでは収録曲が違いますか?

A6:国内盤のCDとLPは、基本的に同じ全8曲を収録しています。違いは再生形式やパッケージなどです。海外盤LPには透明盤・ブルー盤の仕様や、宇多田ヒカル本人による英訳歌詞の掲載といった特徴があります。

Q7:One Last Kissの英訳歌詞はありますか?

A7:あります。海外盤LPの歌詞カードには宇多田ヒカル本人による英訳が掲載されています。日本語の歌詞と比較することで、言葉のニュアンスをより深く楽しめます。

まとめ:One Last Kissはエヴァの始まりと終わりを結ぶ楽曲

宇多田ヒカルの「One Last Kiss」は、2021年3月9日に配信され、3月10日にCDとLPが発売された『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のテーマソングだ。

庵野秀明監督が手掛けたMVは、宇多田ヒカル自身がロンドン郊外で撮影した素材を日本で編集するという独特の制作方法で完成した。

また、全8曲を収録したE.P.には、歴代のエヴァ関連楽曲だけでなく、「Beautiful World (Da Capo Version)」も収録されている。

特に重要なのは、この新バージョンが「One Last Kiss」とメドレーを構成し、シリーズの始まりと終わりを音楽で結び付けていることだ。

歌詞に描かれるのは、別れの悲しさだけではない。誰かを愛した記憶は、時間が過ぎても消えず、その人と過ごした経験が自分の中に残り続けるという感覚だ。

2026年に改めて聴いても、この曲はエヴァンゲリオンの完結を記念する楽曲であると同時に、誰かとの出会いや別れを経験した人自身の記憶に寄り添う作品として響く。

「One Last Kiss」は、エヴァンゲリオンの物語を締めくくる音楽であり、宇多田ヒカルがシリーズと歩んできた時間を振り返る一曲でもある。